
『るろうに剣心』に実在の人物は出てきます。それも、かなりの数です。
ただし「実在の人物」には4つの層があり、混ざって語られています。
| 層 | 中身 |
|---|---|
| ①実名で登場する | 斎藤一、大久保利通、山県有朋、沖田総司ほか多数 |
| ②公式ガイドにだけ出てくる | 幕末四大人斬り(本編には登場しない) |
| ③モデルと明記されている | 緋村剣心、武田観柳 |
| ④よく言われるが、出典に記載がない | 志々雄真実=芹沢鴨、など |
出典にあたって整理します。
実名で登場する実在の人物
作品には「実在の人物」という枠が設けられています。主な顔ぶれです。
| 人物 | 作中での立場 |
|---|---|
| 斎藤一/藤田五郎 | 元・新選組三番隊組長。維新後は明治政府の警官。幕末からの剣心の宿敵 |
| 大久保利通 | 明治政府の内務卿。剣心に京都行きを依頼する |
| 山県有朋 | かつて剣心と共に幕末を生きた長州派維新志士。明治政府の陸軍卿 |
| 川路利良 | 警視庁の大警視。斎藤の上司 |
| 相楽総三 | 赤報隊の隊長。左之助が師と仰ぐ |
| 勝海舟・徳川慶喜 | ノベルス版とアニメ『勝海舟編』に登場 |
| 西郷隆盛・坂本龍馬 | 劇場版の回想場面に一瞬だけ登場 |
| 近藤勇・土方歳三・沖田総司 | 新選組として登場 |
明治政府の要人が、実名のまま物語に組み込まれています。
斎藤一は、生年月日まで史実と同じです
実名で登場する人物のなかで、最も作中の比重が大きいのが斎藤一です。どこまで史実と重なるのかを並べます。
| 史実 | 作中 | |
|---|---|---|
| 生年月日 | 天保15年1月1日(1844年2月18日) | 1844年2月18日 |
| 新選組での役 | 副長助勤、四番隊組長、三番隊組長、撃剣師範 | 三番隊組長 |
| 改名 | 山口一 → 斎藤一 → 藤田五郎 | 藤田五郎 |
| 階級 | 警視庁の警察官。階級は警部 | 明治政府の警官(警部補) |
| 西南戦争 | 警視隊に所属して西郷軍と戦う | 戦い抜いた |
誕生日はそのまま使われています。階級だけが一段ずれています。
史実の斎藤は、御陵衛士に入っていた時期があります
作中で御陵衛士として登場するのは服部武雄・阿部十郎・加納鷲雄です。彼らは新選組を割って出た側として描かれます。
ところが史実の斎藤一も、一時期は御陵衛士に入隊しています。
そして、静かな晩年を送っています
作中の斎藤は「悪・即・斬」を信念とする剣客ですが、史実の斎藤一のその後は違う姿です。
| 退職後の職 | 高等師範学校(現・筑波大学)の守衛/東京女子高等師範学校(現・お茶の水女子大学)の庶務掛兼会計掛 |
| 没年 | 大正4年(1915年)9月28日 |
| 墓所 | 福島県会津若松市七日町の阿弥陀寺 |
明治を生き延び、学校の守衛と事務職員として大正まで生きています。
なお出典は、斎藤について「出自、経歴は不明な点も多い」とも記しています。
新選組は、集合図に名前が書かれています
新選組については、実名の出方が独特です。
原作7巻の剣心の回想場面に新選組の集合図が描かれ、そこで名前が明かされた隊士たちがいます。
| 隊士 | 作中での扱い |
|---|---|
| 近藤勇 | 局長。『新選組群狼伝』と同じデザイン |
| 土方歳三 | 副長。『北海道編』で五稜郭に籠城していたときの洋装の写真が登場 |
| 沖田総司 | 一番隊組長。剣心と幾度も死闘を繰り広げた |
| 原田左之助 | 十番隊組長。槍の名手 |
| 永倉新八 | 『北海道編』の主要人物として登場 |
| 服部武雄・阿部十郎・加納鷲雄 | 御陵衛士として油小路の変に関わる |
| 井上源三郎・山崎烝・島田魁 | 名前が挙がる |
土方歳三は、剣心にこう評されています
作中で剣心と一対一で戦った土方について、こう記されています。
剣の腕ではなく、戦の巧さで評価されています。
近藤勇を捕縛させた人物も、実名で出てきます
『北海道編』に登場する加納鷲雄は、史実どおり伊東甲子太郎が新選組を割った際に御陵衛士につき、油小路の変で新選組と戦った人物です。
そして史実には、その先があります。
加納は流山で偽名を使っていた近藤の正体を見破り、捕縛・斬首に至らしめました。
作中でもこの経緯が扱われ、加納はそれを「成り行き上仕方なかった」と後悔し、永倉と再会した際に謝罪しています。
実在の隊士どうしの因縁が、そのまま物語に持ち込まれています。
主人公を人斬りにしたのは、実在の人物です
物語の出発点にも、実名の人物が置かれています。
| 人物 | 作中での役割 |
|---|---|
| 桂小五郎(後の木戸孝允) | 剣心の上役。奇兵隊に入隊した剣心を見出し、人斬りに任命した |
| 高杉晋作 | 奇兵隊を創設。桂と共に剣心を見出す |
| 久坂玄瑞 | 桂・高杉と並ぶ長州三傑の一人として『剣心皆伝』に登場 |
| 幾松 | 桂の恋人(後の妻・木戸松子)。OVAで登場 |
作中の高杉は、わずか14歳の剣心を人斬りにすることを了承しながら、桂にこう釘を刺します。
桂はそれ以来、刀を抜かなかったという設定になっています。
維新三傑の一人が、架空の主人公を生み出した人物として書かれています。
そして、史実が書き換えられています
ここからが本題です。実名で出てくるからこそ、記録と違う部分がはっきり残ります。
大久保利通を暗殺したのは、架空の人物です
史実の紀尾井坂の変で大久保利通を殺害したのは、島田一郎ら6名です。作中では違います。
| 作中の暗殺者 | 瀬田宗次郎(架空の人物) |
| 島田一郎たちの役割 | 直後に馬車へ踏み込み、自分たちの犯行と見せかけるために遺体を切り刻んだ |
| 日付 | 明治11年5月14日(史実と同じ) |
史実の暗殺犯が、作中では「偽装した側」に配置されています。
日付と場所は史実どおりに残したまま、実行犯だけを架空の人物に差し替える——歴史の隙間に物語を差し込む作り方です。
相楽総三の最期が、媒体によって違います
赤報隊の相楽総三は、偽官軍とされて処刑された実在の人物です。
| 処刑の方法 | |
|---|---|
| 史実 | 斬首 |
| 原作 | 斬首 |
| アニメ第1作 | 銃殺 |
同じ作品でも、媒体によって史実からの距離が違います。
川路利良の体格が、逆になっています
初代大警視・川路利良は作中で「小柄」として描かれ、一喝で剣心と斎藤の戦いを止めます。
史実の川路は長身でした。出典もその点を注記しています。
なお川路は、作品の本編の翌年にあたる明治12年に病気で亡くなっています。
沖田総司の読み方が違います
細かいところですが、出典が明確に指摘しています。
| 読み | |
|---|---|
| 史実 | おきた そうじ |
| 原作・OVA『追憶編』 | おきた そうし |
| アニメ版公式サイト | そうじ |
作品の内部でも、表記が揃っていません。
剣心のモチーフは、河上彦斎です
主人公については、出典がはっきり書いています。
作者本人の発言も残っています。
ひとりの人物を写したのではなく、四人をまとめて参考にしたという言い方です。
ただし、河上彦斎は本編に登場しません
意外に思われるところです。モチーフになった人物は、作中に一度も出てきません。
登場するのは公式ガイド『剣心皆伝』の企画「剣心再筆」のみで、そこで作者にデザインされています。
作者は「お互い迷惑」という設定を付けています
その『剣心皆伝』での河上彦斎の紹介が、少し変わっています。
「剣心=河上彦斎」と混同されることを、作者が作中設定に取り込んでいます。
「幕末四大人斬り」は、公式ガイドだけに出てきます
剣心の参考元とされた四人は、全員が『剣心皆伝』の「再筆のみの人物」として描かれています。
| 人物 | 『剣心皆伝』での描かれ方 |
|---|---|
| 河上彦斎 | 中性的な風貌。抜刀斎と混同され、互いに迷惑がっている |
| 岡田以蔵 | ロングヘアの不気味な男性。人を斬りすぎて人間の域を超えており、龍馬にのみ心を開く |
| 中村半次郎 | 眼鏡をかけた文武両道のインテリ。西郷や大久保の命令がなければ虫一匹殺さない |
| 田中新兵衛 | 飲めば飲むほど強くなる酒天の剣客 |
四人とも実在の人物ですが、本編には出てきません。
「実在の人物が登場する」と「実在の人物を参考にした」は、別のことです。
武田観柳のモデルは、実名でも登場しています
面白い例がひとつあります。悪役の武田観柳です。
つまりモデルの本人が、同じ作品に実名で出ています。
さらに設定の経緯まで残っています。観柳斎が男色家だったとする説があるため——出典は「確証はない」と付記しています——当初は武田観柳も男色家という設定でしたが、本編に関連がなくマニアック過ぎるという理由で除去されました。
実在の隊士の伝説が、架空の人物に引き継がれています
もうひとつ、名前をめぐる面白い例があります。
新選組十番隊組長の原田左之助には、戦死後も生き延びて大陸へ渡り、馬賊になったという伝説が実在します。
そして作中には、相楽左之助という主要キャラクターがいます。
出典によれば、この馬賊伝説は小説『春に桜』における左之助の後日談に引用されています。
実在の隊士に付いた伝説が、名前を分けた架空の人物の物語に流れ込んでいます。
よく言われるが、出典で確認できないもの
検索すると「モデル一覧」が数多く出てきますが、そのすべてに根拠があるわけではありません。
本記事で当たった出典での扱いを整理します。
| よく見る説 | 出典での扱い |
|---|---|
| 緋村剣心=河上彦斎 | ○ モチーフと明記。作者の発言もある |
| 武田観柳=武田観柳斎 | ○ モデルと明記 |
| 志々雄真実=芹沢鴨 | × 「芹沢鴨」の語が0件。記載なし |
| 鵜堂刃衛=岡田以蔵 | × 岡田以蔵は「幕末四大人斬り」として別に扱われており、この対応の記載はない |
| 瀬田宗次郎=沖田総司 | × 沖田総司は実名で別に登場しており、この対応の記載はない |
否定する材料があるわけではありません。確認できる出典が見つからない、というのが正確なところです。
なお勝海舟がノベルス版で剣心を評する場面に、「岡田以蔵に似ている」という台詞が出てきます。人斬りどうしを重ねる発想が作中にあること自体は、確かです。
史実がそのまま使われている場面もあります
書き換えばかりではありません。新選組の服部武雄については、出典がこう記しています。
史実どおり伊東甲子太郎が新選組を割った際に御陵衛士につき、油小路の変でも新選組と激闘した——という描かれ方です。作中では斎藤・永倉と斬り結び、最終的に原田も加わって致命傷を負います。
実在の事件の構図を残したまま、その中に主要人物の物語を通しています。
実在の人物の一覧
本記事で当たった出典に名前が出てくる実在の人物を、区分ごとにまとめます。
明治政府・警察
| 人物 | 作中での扱い |
|---|---|
| 大久保利通 | 内務卿。紀尾井坂で架空の人物に暗殺される |
| 山県有朋 | 陸軍卿。回想では山県狂介と名乗る若き日の姿が登場 |
| 川路利良 | 警視庁の大警視。斎藤の上司。史実では長身だが作中は小柄 |
| 山吉盛典 | 福島県令。大久保が暗殺される日の朝に話をした人物 |
| 島田一郎・長連豪・杉本乙菊 | 石川県士族。史実の大久保暗殺犯。作中では志々雄に計画を利用される |
新選組・御陵衛士
| 人物 | 作中での扱い |
|---|---|
| 斎藤一/藤田五郎 | 三番隊組長。本編の主要人物 |
| 永倉新八 | 『北海道編』の主要人物 |
| 近藤勇・土方歳三・沖田総司・原田左之助 | 回想と集合図に登場 |
| 井上源三郎・山崎烝・島田魁 | 名前が挙がる |
| 服部武雄・阿部十郎・加納鷲雄 | 伊東甲子太郎が新選組を割った際に御陵衛士につき、油小路の変で新選組と戦う |
| 武田観柳斎 | 五番隊組長。悪役・武田観柳のモデルでもある |
維新志士・幕府側
| 人物 | 作中での扱い |
|---|---|
| 桂小五郎 | 剣心の上役。剣心を人斬りに任命した |
| 高杉晋作 | 奇兵隊を創設。桂と共に剣心を見出す |
| 幾松 | 桂の恋人(後の妻・木戸松子)。OVAで登場 |
| 相楽総三 | 赤報隊の隊長。偽官軍として処刑される |
| 勝海舟・徳川慶喜 | ノベルス版とアニメ『勝海舟編』に登場 |
| 西郷隆盛・坂本龍馬 | 劇場版の回想に一瞬だけ登場 |
公式ガイドにのみ登場
| 人物 | |
|---|---|
| 河上彦斎・岡田以蔵・中村半次郎・田中新兵衛 | 幕末四大人斬り。『剣心皆伝』の「剣心再筆」でのみ描かれる |
| 久坂玄瑞 | 桂・高杉と並ぶ長州三傑の一人として描かれる |
なお主要人物の多くは架空です。神谷薫、相楽左之助、明神弥彦、志々雄真実、瀬田宗次郎、四乃森蒼紫には、出典が示すモデルがありません。
よくある質問
るろうに剣心に実在の人物は登場しますか?
多数登場します。斎藤一、大久保利通、山県有朋、川路利良、相楽総三、勝海舟、徳川慶喜、西郷隆盛、坂本龍馬、近藤勇、土方歳三、沖田総司などが実名で出てきます。作品には「実在の人物」という枠が設けられています。
緋村剣心のモデルは河上彦斎ですか?
出典は「人物像のモチーフとなったのは、幕末に実在した剣客である河上彦斎」と明記しています。作者の和月伸宏も「幕末の四大人斬り」を参考にしたと述べています。ただし河上彦斎は本編には登場せず、公式ガイド『剣心皆伝』でのみ描かれています。
斎藤一は史実と同じ人物ですか?
実在の人物として登場します。元・新選組三番隊組長で、維新後に「藤田五郎」と改名した点も史実どおりです。作中では明治政府の警官として、剣心の宿敵という立場で描かれます。
志々雄真実のモデルは芹沢鴨ですか?
本記事で当たった出典では確認できませんでした。『るろうに剣心』の関連記事に「芹沢鴨」の語は出てきません。よく語られる説ですが、根拠となる記載を見つけられませんでした。
大久保利通は史実どおりに暗殺されるのですか?
日付(明治11年5月14日)と場所(紀尾井坂)は史実どおりですが、実行犯が架空の人物に差し替えられています。史実の暗殺犯である島田一郎たちは、作中では「自分たちの犯行と見せかけるために遺体を切り刻んだ」役回りになっています。
まとめ
実在の人物は出てきます。ただし、出てくる層が4つに分かれています。
実名で物語に加わる人物、公式ガイドだけに描かれる人物、モチーフとされる人物、そして根拠を確認できないまま語られている対応。この4つが混ざったまま「モデル一覧」として流通しています。
そして実名で登場するからこそ、暗殺犯や処刑方法、体格や読み方といった記録との差が、そのまま残っています。
史実を借りるほど、変えたところが見えやすくなります。
新選組そのものについては、隊旗の「誠」の由来を出典にあたって調べた記事もあります。
本記事の事実関係は、日本語版Wikipediaの『るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚-』『るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚-の登場人物一覧』『緋村剣心』にあたって確認しました。
モデル説については、出典に記載のあるものと、記載を確認できなかったものを分けて示しています。記載が見つからないことは、その説が誤りであることを意味しません。
実在の人物を扱うため、作中の描写と史実を区別して記載し、作中の設定を史実として示さないようにしています。

