湾岸署のモデル|現実の警察署はドラマの11年後にできた

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「湾岸署のモデルはどこか」を調べると、ロケ地の記事ばかりが出てきます。

ですが、この作品にはモデルになった警察署がありません。

順番が逆だからです。ドラマが先にあって、現実の警察署が11年後にできました。

しかも名前は、警視庁の側から制作会社に相談されています。

出典にあたって整理します。

作中の湾岸署は、実在しない住所にあります

まず、作品のなかの設定から。

項目 設定
正式名称 通称 WPS=Wangan Police Station。「WPS/湾岸署」の2段書きはフジテレビの登録商標
所属 警視庁第一方面本部。1995年に新設された設定
所在地 東京都港区台場3丁目2番8号。ただし実際には台場は2丁目までしかありません

番地の時点で、現実には存在しない場所が指定されています。

公式の地図と、映像が食い違っています

場所については、資料のなかでもずれがあります。

資料 示している位置
『THE MOVIE 2』のパンフレット、公式本『踊る大捜査線研究ファイル』 地図上ではフジテレビがある位置
テレビシリーズ第1話、『THE MOVIE 2』冒頭の出勤シーン 東京テレポート駅を出て、フジテレビとは逆方向の夢の大橋方面へ歩いている

公式資料と映像が、別の方向を指しています。

ロケ地は、そもそも台場ではありません

「お台場のロケ地巡り」で語られることが多い作品ですが、庁舎の撮影場所は台場ではありません。

撮影されたもの 場所
湾岸署(外観・1階ロビー・屋上・生活安全課) 潮見コヤマビル(現DSBグループ潮見ビル/江東区潮見
新湾岸署(『THE MOVIE 3』以降の外観・1階ロビー) the SOHO。現存する東京湾岸警察署の隣
警視庁の大階段 キヤノン本社地内ビルディングの正面大階段
新湾岸署の捜査会議室 クロス・ウェーブ府中

湾岸署の庁舎として映っているのは、江東区潮見のオフィスビルです。

なお出典の「撮影協力」欄には、上記のほかに警視庁、東京テレポート駅、カシオ計算機、茨城県庁、いわき市、神戸市営地下鉄などが並んでいます。

台場から見て、東京湾を挟んで反対側にあたります。作品の舞台と、撮影地と、現実の警察署。3つとも別の場所です。

現実の東京湾岸警察署は、ドラマの11年後にできました

ここが、この記事のいちばん重要な点です。

テレビシリーズ放送開始 1997年
東京湾岸警察署 開署 2008年3月31日

東京水上警察署を移転改築し、近隣署と管轄を調整して、臨海副都心全体を管轄する警察署として開署しました。

ドラマのモデルになったのではありません。ドラマの11年後に、同じ名前の警察署ができました。

作中の湾岸署と、現実の署は性格も違います

作中の湾岸署は、新設されたばかりで周囲が建設予定地ばかりという設定でした。

他の所轄署(特に勝どき署)や警視庁の捜査員などからは「空き地署」と呼ばれ蔑まれていたWikipedia『踊る大捜査線』

大規模所轄ではあるが、本庁の駒にされる立場の弱い所轄——それが作中の設定です。

一方、現実の東京湾岸警察署はまったく違います。

現実の東京湾岸警察署
管轄区域 東京23区内の警察署としては最も広い
体制 署員約250人の中規模署。署長は警視
特徴 東京港や23区内の航行可能な河川を含む水上部分も管轄する
前身 東京水上警察署。同署の「舟艇課」を「水上安全課」と改称して引き継いだ
管内 第七方面交通機動隊、警視庁航空隊も所在する

作品が描いた「空き地に建った弱小署」と、23区で最も広い管轄を持つ署。

名前は同じでも、中身は別物です。

名前は、警視庁の側から相談されています

開署にあたって何があったかを、シリーズのエグゼクティブプロデューサー・亀山千広(現BSフジ代表取締役社長)が語っています。

本署の開署に当たって、警視庁から総務を通して「名前は「東京湾岸署」で行きたいけどどうだろうか」と打診があったWikipedia『東京湾岸警察署』(亀山千広の証言)

テレビドラマは既に終了していました。それでも亀山はこう返します。

僕らは映画(版)を終わらせるつもりはないので、『湾岸署』という名称が使えなくなったら困ります亀山千広(Wikipedia『東京湾岸警察署』)

そのやりとりが、映画の新作を生んでいます

2004年に和久平八郎役のいかりや長介が亡くなって以降、制作陣はもう次回作はないと考えていました。

ところがこのやりとりがきっかけで、映画の新作を作ることになったと出典は記しています。

現実の警察署ができることが決まったから、映画が復活した。影響は、作品から現実へ一方通行ではありませんでした。

開署式に、青島俊作から祝電が届いています

2008年3月31日の開署式に、主演の織田裕二から祝電が寄せられました。差出人の名義がこうなっています。

「湾岸署」刑事課強行犯係 巡査部長 青島俊作こと、俳優 織田裕二Wikipedia『東京湾岸警察署』

そして祝電と連動する形で、映画の続編『踊る大捜査線 THE MOVIE3 ヤツらを解放せよ!』の制作決定が発表されました。現実の湾岸署の設置が決まったことがきっかけだと、フジテレビが発表しています。

亀山は「冒頭は新湾岸署への引っ越しシーンから始まる」と述べており、劇中の設定でも2010年に移転したことになっています。

それでも「関係はない」ことになっています

ここが、この件のいちばん奇妙なところです。

実際の扱い
警視庁 架空の「湾岸警察署」を舞台としたドラマとの関連を否定している
映画『THE MOVIE 3』 エンドロールに、東京湾岸署が開署したことと、当該作品とは関係がない旨の表示がある
一方で一日署長 2008年に北村総一朗(神田署長役)、2010年に北村・斉藤暁・小野武彦(スリーアミーゴス)、2013年に柳葉敏郎(室井慎次役)が任命されている

関連を否定しながら、名前を相談し、役者を一日署長にしています。

一部のマスコミは略称として「湾岸署」を使い、庁舎をカメラで撮影する観光客が訪れる台場の新たな観光スポットになった、と出典は書いています。

公式には無関係で、実態としては完全に地続きです。

「臨海署」になっていたかもしれません

もうひとつ、名前をめぐる話があります。

「臨海署」も、実際に名称候補の一つでした。

そしてこの名前にも、先客がいます。今野敏の小説「安積班シリーズ」(第1作は1988年)に登場する架空の警察署です。

作中の署名 東京湾臨海警察署(ベイエリア分署・湾岸分署)
作中の所在地 東京都江東区青海2丁目=東京湾岸署と同じ場所
開署時期の扱い 作中の臨海署も新庁舎に移転し、東京水上署を統合して中規模署化された設定になった

2つの作品が、同じ場所に架空の警察署を置いていました。そこに現実の警察署ができ、片方の名前が採用されています。

よくある質問

湾岸署のモデルになった警察署はありますか?

ありません。作中の所在地は港区台場3丁目2番8号ですが、実際の台場は2丁目までです。現実の東京湾岸警察署は、テレビシリーズ放送開始の11年後、2008年3月31日に開署しました。モデルではなく、後からできた同名の警察署です。

湾岸署のロケ地はどこですか?

庁舎は江東区潮見の潮見コヤマビル(現DSBグループ潮見ビル)です。外観、1階ロビー、屋上、生活安全課のシーンがここで撮影されています。『THE MOVIE 3』以降の新湾岸署は、東京湾岸警察署の隣にあるthe SOHOが使われています。

警視庁の大階段はどこで撮影されたのですか?

キヤノン本社地内ビルディングの正面大階段です。ほかに、新湾岸署の捜査会議室としてクロス・ウェーブ府中が使われています。

実在の東京湾岸警察署はドラマと関係がありますか?

警視庁は関連を否定しています。映画のエンドロールにも、当該作品とは関係がない旨の表示があります。ただし開署にあたって警視庁側から制作会社に名称の打診があり、開署式には主演俳優から祝電が届き、その後も出演俳優が一日署長を務めています。

湾岸署は台場にあるのですか?

作中の設定では台場です。ただし公式本の地図はフジテレビの位置を示す一方、映像では東京テレポート駅からフジテレビと逆方向へ歩いています。撮影に使われた建物は台場ではなく江東区潮見で、現実の東京湾岸警察署は江東区青海にあります。

まとめ

モデルは存在しません。現実のほうが、後から作品に寄っていきました。

作中の住所は実在しない番地で、庁舎として映っているのは江東区潮見のオフィスビル。現実の東京湾岸警察署はドラマの11年後にでき、その名前は警視庁の側から制作会社に相談されたものでした。そしてその相談が、終わったはずの映画シリーズを再開させています。

作品が場所を借りたのではなく、場所のほうが名前を借りました。

なお本シリーズは、『踊る大捜査線 N.E.W. メトロポリスを駆け抜けろ!』が2026年9月18日公開予定とされています。

作品の「モデル」が特定の1か所に定まらない例としては、『千と千尋の神隠し』の油屋のモデルを出典にあたって整理した記事もあります。

本記事の事実関係は、日本語版Wikipediaの『踊る大捜査線』および『東京湾岸警察署』にあたって確認しました。亀山千広の証言と織田裕二の祝電に関する記述は、後者に拠ります。
公開予定の作品については、出典が「予定」と記載している範囲で記載しています。

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