
主人公の名字は「小戸川」。作品名は「オッドタクシー」。
おどかわ、と、オッド。
これは掛詞だ、という説明を、あちこちで見かけます。
ただ、出典を辿ろうとすると止まります。
制作陣がそう言った記録が、見つかりません。
一方で、名前の付け方そのものには、はっきり辿れる法則がありました。
この記事では、出典に辿れる説と辿れない説を分けます。
結論:辿れるものと、辿れないもの
| 説 | 判定 | 根拠 |
|---|---|---|
| 「小戸川=Odd」の掛詞 | 公式の説明が無い | 制作陣が公言した記録に辿れない |
| 名前と動物が音で重なる | 実際に重なる | キャラクター表で確認できる |
| 小戸川はオットセイだからオドカワ | 誤り | 公式のモチーフはセイウチ |
| 製作会社の名前 | 小戸川交通 | 作中のタクシー会社と同じ |
| タイトルの意味が作中で語られる | 第10話とされる | 回の題と放送日は確認できた |
| 「イン・ザ・ウッズ」の由来 | 確認できない | 発言の原文に辿れなかった |
順番に見ていきます。
公式サイトにも、Wikipediaにも書かれていません
まず、探しても見つからないことを先に書きます。
日本語版Wikipediaの『オッドタクシー』の項目を全文検索すると、「由来」も「命名」も0件です。
公式サイト oddtaxi.jp のトップページは、画像とリンクだけで構成されていて、本文にあたるテキストがありません。
SERPの上位9本も見ました。感想・考察・伏線の記事が並び、名前の由来に正面から答えているものは0本でした。
「小戸川=Odd」は、公式の説明ではありません
放送初期から、視聴者のあいだで語られてきた読み方があります。
「小戸川(オドカワ)」の頭の音が、タイトルの「オッド(Odd)」と重なっている、というものです。
第10話で「ODD」が物語の核心に関わってくると、この読み方はいっそう説得力を持って広まりました。
ただし、監督の木下麦や脚本の此元和津也が「Oddから逆算して小戸川という姓を作った」と述べた記録には、辿り着けませんでした。
この読み方が強くなった理由は、はっきりしています。
第10話でタイトルと同じ語が物語の中心に来たことで、後ろ向きに読み直されたのです。名前が先にあって意味が後から効いてくる作品なので、視聴者の側が接続したくなる構造になっています。
ただ、読めることと、そう設計されたと確認できることは別です。
脚本の此元和津也は、インタビューで会話劇の設計や登場人物の疎外感について語っていますが、姓を英単語から逆算したという説明はしていません。
ファンの解釈が批評として定着したもの、と見るのが妥当だと考えられます。
「オットセイだからオドカワ」は誤りです
ネット上の解説でときどき見かける説明ですが、これは事実と違います。
小戸川宏のモチーフは、公式には「セイウチ」です。オットセイではありません。
名前と動物は、音で重なっています
掛詞の話とは別に、名前の付け方そのものには法則があります。
キャラクター表を並べると、名字と動物が重なっているのが分かります。
| 名前 | 動物 | 重なり |
|---|---|---|
| 剛力歩(ごうりき) | ゴリラ | ごうり/ゴリ |
| 白川美保(しらかわ) | アルパカ | 白い体毛の「白」 |
| 柴垣(しばがき) | 柴犬 | 柴 |
| 馬場(ばば) | ウマ | 馬 |
| 樺沢太一(かばさわ) | カバ | カバ |
| 矢野治(やの) | ヤマアラシ | トゲ=矢 |
| ドブ(本名 溝口恭平) | ヒヒ | 溝(みぞ)=ドブ |
ドブの例は、通り名そのものが本名の言い換えになっています。溝を訓読みで言い換えると、ドブです。
直接の音ではなく、連想でつながっている例もあります。
- 柿花英二はシロテナガザル。猿から『さるかに合戦』の柿へ
- 黒田はマレーバク。白と黒の体色と、裏社会の「黒幕」
- 大門兄弟はミーアキャット。立って周囲を警戒する姿と警察官
- 田中一はミナミコアリクイ。ありふれた名字と、最初の数字
漫才コンビの名前が「ホモサピエンス」である点も、この並びの中に置くと意味が変わって見えます。
製作会社の名前が「小戸川交通」です
これは意外と書かれていません。
テレビシリーズのクレジットで、製作の名義になっているのは「小戸川交通」です。
作中で主人公が所属するタクシー会社の名前が、そのまま現実の製作主体の名義になっています。
劇場版では「映画小戸川交通パートナーズ」に変わります。
名前をめぐる遊びは、画面の中だけで終わっていません。
タイトルの意味は、作中で説明されるとされています
「odd」は多義語です。辞書的には次のような意味があります。
- 奇妙な、風変わりな
- 奇数の
- 2つで1組のうちの、片方だけの
3つ目の語義が作中で使われる場面があると、複数の記事が指摘しています。該当するのは第10話「俺たちに明日はない」で、2021年6月8日の放送です。
回の題と放送日は確認できました。ただし筆者は本編の台詞そのものを確認できていないため、この記事では逐語の引用を載せません。
ditch11 の「ditch」は溝です
作中に出てくるアカウント名です。
ditch は英語で「溝」。そして、この名前を使う人物の本名は溝口恭平です。
「イン・ザ・ウッズ」については、確認できませんでした
劇場版のサブタイトルです。芥川龍之介『藪の中』に由来する、という説明があります。
ただし、脚本の此元和津也がそう述べた発言の原文には辿り着けませんでした。筆者が取得した2本のインタビュー(Febri・アニメ!アニメ!)に、「藪の中」の語は出てきません。
もうひとつ、字面の問題があります。
『藪の中』の英訳題(訳者 Takashi Kojima/Jay Rubin/James O'Brien)
「In the Woods」は、『藪の中』の定訳ではありません。
仮に由来が『藪の中』だったとしても、それは既存の英訳題を借りたのではなく、制作側が付け直した言い換えということになります。
なお、劇場版が17名の関係者の証言で構成されている点は、公式インタビューで確認できました。
作品の基本データ
名前の話から離れますが、出典を確認するうえで押さえておく数字です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 監督 | 木下麦 |
| 脚本 | 此元和津也 |
| アニメーション制作 | P.I.C.S. × OLM Team Yoshioka |
| 放送 | 2021年4月6日〜6月29日・テレビ東京ほか・全13話 |
| 製作 | 小戸川交通 |
| 音楽 | PUNPEE、VaVa、OMSB |
| 劇場版 | 2022年4月1日公開・128分 |
| 受賞 | 第25回文化庁メディア芸術祭アニメーション部門 新人賞 |
オープニングテーマの曲名も「ODDTAXI」です。スカートとPUNPEEによる楽曲で、作品名と同じ表記が使われています。
漫画版のほうが先に始まっています
見落とされがちですが、コミカライズはアニメより早く連載が始まっています。
漫画版の開始が2021年1月15日、アニメの放送開始が4月6日です。原作は此元和津也とP.I.C.S.、作画は肋家竹一で、小学館のビッグコミックスペリオールに掲載されました。
2023年2月24日には、新プロジェクト「RoOT / ルート オブ オッドタクシー」も始動しています。
まとめ
- 公式サイトにもWikipediaにも、名前の由来の記述は無い
- 「小戸川=Odd」の掛詞は、制作陣が述べた記録に辿れない
- 「オットセイだからオドカワ」は誤り。モチーフはセイウチ
- 名前と動物が音や連想で重なる法則は、キャラクター表で確認できる
- 製作の名義は「小戸川交通」
- 「イン・ザ・ウッズ」の由来は確認できなかった
辿れる話と、辿れない話が、同じ調子で並んでいます。
分けて読むと、この作品の名前の付け方はかなり周到です。
よくある質問
「オッドタクシー」の「オッド」はどういう意味ですか?
英語の odd で、「奇妙な」「奇数の」「2つで1組のうちの片方だけの」といった意味があります。どの語義を指しているかを公式が一つに定めた説明は見つかりませんでした。
小戸川という名字はOddから来ているのですか?
そう読める形にはなっていますが、制作陣がそう述べた記録には辿り着けませんでした。視聴者の解釈が広まったものと考えられます。
小戸川はオットセイですか?
いいえ。公式のモチーフはセイウチです。
登場人物の名前に法則はありますか?
あります。剛力=ゴリラ、柴垣=柴犬、馬場=ウマ、樺沢=カバのように、名字と動物が音で重なります。柿花=シロテナガザルと『さるかに合戦』の柿のように、連想でつながる例もあります。
正式な表記はどちらですか?
日本語表記は『オッドタクシー』、英字ロゴはスペースを入れない「ODDTAXI」です。
漫画版とアニメはどちらが先ですか?
漫画版が先です。連載開始が2021年1月15日、アニメの放送開始が同年4月6日です。
この記事は、『オッドタクシー』の名前をめぐる説を、出典に辿れるかどうかで仕分けたものです。
公式サイトの記載の有無はブラウザ上の実際の表示で確認し、書誌は国立国会図書館の書誌で照合しました。
本編の台詞そのものは確認していません。そのため逐語の引用は載せず、回の題と放送日だけを書いています。
「確認できなかった」と書いた箇所は、当記事で当たった資料の範囲での話です。断定はしていません。
物語の仕掛けにあたる部分には立ち入っていません。

