進撃の巨人の元ネタ|壁のモデルは作者の地元にあった

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『進撃の巨人』の元ネタを検索すると、まず出てくるのが北欧神話です。

ユミル、世界樹、巨人。たしかに符合します。

ただ、Wikipediaの「制作背景」を読むと、少し違う景色が見えます。

北欧神話への言及は、1行だけです。

そして作者・諫山創が実際に名前を挙げている元ネタは、まったく別のところにありました。

作者が名前を挙げた作品

出典に、諫山本人の言葉として残っているものから並べます。

作品 何を受け取ったか
マブラヴ オルタネイティヴ(ゲーム) 「作り手に殺される」と感じるほどの悪意的姿勢
『ARMS』(皆川亮二) 最も影響を受けた漫画
『坂の上の雲』(司馬遼太郎) 弱者が強者へ挑むという展開の参考

いちばん意外なのが1つ目です。

諫山は、恋愛アドベンチャーゲーム『マブラヴ オルタネイティヴ』の「作り手に殺される」と感じるほどの悪意的姿勢を自分なりに表現し、世間に投げつけたかったと述べているWikipedia『進撃の巨人』制作背景

元ネタは神話ではなく、恋愛アドベンチャーゲームの「悪意」だった。

3つ目の『坂の上の雲』も渋い。日露戦争を描いた歴史小説から、弱者が絶対的に不利な相手へ挑む構図を持ってきています。

そしてそれは、諫山自身の話でもあります

弱い者が強い者に挑むという展開について、出典は本人の経験まで書いています。

幼少期から同世代と比べて10キロほど体重が軽く、劣等感を感じていた。それでもちびっこ相撲大会に強制的に参加させられ、全国ランキングに入る相手と対戦して強大なモノへの絶望感を味わった。少年時代には川に飛び込む度胸試しから最後まで逃げた。

「もっと真面目にやれば良かった」という後悔や歯がゆさが、反骨心としてあの展開になっていると述べています。

巨人の見た目はどこから来たのか

「人を喰う巨人」という着想にも、はっきりした出所があります。

作品 要素
『フランケンシュタインの怪獣 サンダ対ガイラ』 ガイラ
『ガメラ 大怪獣空中決戦』 ギャオス
『地獄先生ぬ〜べ〜』 画霊「人食いモナリザ」

いずれも小学生のころに見たもので、諫山のトラウマの1つになっていると書かれています。神話ではなく、特撮と少年漫画です。

あの表情は、ネットカフェのバイトから来ています

ここがいちばん面白い。

読み切り版では巨人は記号的なモンスターでした。ところが新人賞の授賞式で、少年マガジン編集部の編集長から「巨人をもっと怖く」という助言を受けます。

そこで参考にしたのが、これです。

自身がネットカフェでのアルバイト中に経験した、「泥酔して何を考えているかまったくわからないのに知恵はある客」とのやりとりで感じた「意思疎通のできない人間」への恐怖体験を参考にし、記号的に牙や角などを付けるのではなく、巨人の表情を喜怒哀楽のどれか1つに限定させることで巨人から恐怖感や不気味さを生み出すことに成功したWikipedia『進撃の巨人』制作背景

牙も角も付けず、表情を1種類に固定した。

あの気味の悪い笑顔の出どころは、深夜のネットカフェにいた酔っ払いでした。

壁のモデルは、作者の地元にありました

そして最大の答えがこれです。

周囲を壁に囲まれた閉塞した世界。そのモチーフは、諫山の出身地にある実在の岩壁です。

項目 内容
場所 大分県日田郡大山町(現・日田市大山町)
地形 柱状節理からなる熔岩壁
本人の表現 「壁のような山に囲まれた」

そこから外に飛び出したいという少年時代の心境が反映されていて、それがエレンの行動原理に通じていると説明されています。

そして本人がこう言い切っています。

この大山町が、進撃の巨人の舞台になっているWikipedia『進撃の巨人』制作背景(諫山創の発言として)

舞台のモデルはドイツでも中世ヨーロッパでもなく、大分県です。

中世ヨーロッパ風にしたのは「逃げ」を作らないため

見た目が中世ヨーロッパ風なのには理由があります。

読み切り版のように現代の荒廃した世界にする案もありましたが、連載版ではファンタジー的な世界に変更されました。狙いは、作品世界のテクノロジーを現実より劣化させることで、より絶望的な世界を構築できることでした。

出典はこれを「創作上の『逃げ』を作り出す」ことも考慮した結果だとしています。そしてその代わりに、架空の物事についてもなるべく根拠を求めていく姿勢を採っているとのことです。

巨人が人を食べても吸収しない理由

細かいところにも出所があります。

巨人は人を食べるのに栄養として吸収しません。この設定は、菓子研究家の福田里香が提唱する「フード理論」に基づいて追加されたものです。

フード理論の3原則がこれです。

原則
善人は食べ物を美味そうに食べる
正体不明人物は食べ物を食べない
悪人は食べ物を粗末に扱う

諫山はこれをTBSラジオの『ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル』で聞いて「なるほど」と納得したと書かれています。

ラジオで聞いた理論が、そのまま設定になっています。

設定には協力者がいます

もう一点、出典に書かれていることがあります。

一部の設定には、小太刀右京と三輪清宗が設定協力として参加しています。

作者ひとりの発想だけで組み上げられた世界ではない、ということです。

そしてもう一つ、作りの姿勢を示す記述があります。

出版社側から受けた表現規制は「人体の断面を描いてはいけない」程度だったとのこと。そして「読者に媚びることは、読者を裏切ることと等しい」という考えのもと、「舞台などの謎が明かされた時が物語の終わる時」としています。

謎を引き延ばさないと最初から決めていた、ということになります。

では、北欧神話はどうなのか

ここまで一度も出てきていません。最後に確認します。

Wikipediaの『進撃の巨人』全体で、「北欧神話」という語は1回しか出てきません。その1回がこれです。

ユミルなどの北欧神話がベースの設定もあるWikipedia『進撃の巨人』制作背景

「ベースの設定もある」。これだけです。

否定はされていません。ユミルという名前の一致は明白ですし、設定の一部が北欧神話に基づくことは書かれています。

ただし本記事で当たった出典の中では、北欧神話は主要な元ネタとして扱われていません。作者が繰り返し語っているのは、ゲームと特撮と歴史小説と、自分の地元の岩壁のほうです。

検索して最初に出てくる話が、いちばん大きな元ネタとは限らないということになります。

よくある質問

『進撃の巨人』の元ネタは北欧神話ですか?

一部の設定はそうです。ユミルなどが該当します。ただし出典で作者が語っている影響源は、『マブラヴ オルタネイティヴ』『ARMS』『坂の上の雲』、特撮作品、そして自身の出身地の地形です。

壁のモデルはどこですか?

大分県日田市大山町の、柱状節理からなる熔岩壁です。諫山の出身地で、本人が「この大山町が、進撃の巨人の舞台になっている」と語っています。

巨人の顔が怖いのはなぜですか?

編集長から「巨人をもっと怖く」と助言を受けた諫山が、ネットカフェでのアルバイト中に会った泥酔客への恐怖体験を参考に、表情を喜怒哀楽のどれか1つに限定したためです。牙や角は付けていません。

実話をもとにした作品ですか?

実話ではありません。ただし作者自身の経験(体格の劣等感、ちびっこ相撲大会、度胸試しから逃げたこと)が展開に反映されていると本人が述べています。

中世ヨーロッパが舞台なのですか?

そう見える世界観ですが、意図は別のところにあります。テクノロジーを現実より劣化させてより絶望的な世界を構築するために、ファンタジー的な設定へ変更されたと説明されています。

まとめ

作者が語った元ネタは、神話ではありませんでした。

恋愛アドベンチャーゲームの悪意。特撮怪獣と少年漫画の画霊。司馬遼太郎。深夜のネットカフェの酔っ払い。ラジオで聞いた菓子研究家の理論。そして大分県日田市大山町の岩壁。

北欧神話も入ってはいます。ただし出典の扱いは「ベースの設定もある」の1行です。

検索して最初に出てくる答えが、作者の答えとは限りません。

本記事の事実関係は、日本語版Wikipedia『進撃の巨人』の「制作背景」節にあたって確認しました。同節は『ダ・ヴィンチ』2011年6月号の著者インタビュー、『別冊少年マガジン』2010年12月号、現代ビジネス(講談社)などを出典として挙げています。
出典に記載のない元ネタ説は扱っていません。作品のあらすじは、必要な範囲を超えて記載していません。

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